管理組合のためのマンション管理コンサルタント

マンションの管理者が個々の区分所有者に対して、個別の委任契約がない限り事務処理状況を報告する義務を負わないとされた東京地裁判決(H24.5.22)

マンションには多様な居住者が住まいしており、昨今は非常に自己中心的な主張をしたり、自分の意見に沿わない限り執拗な投書を繰り返して、文書での返答を何度も求めたり、多くがボランティアの組合員により運営されている理事会が特定の少数者への対応に大きなエネルギーを使ってしまい、本来の業務に支障が出てしまうようなケースも良くみられます。
そういった場合に、この判決のような法的な判断もあるということは一つの参考になると思います。

もちろん、原則的には組合員の意見や意思をできるだけ反映してマンションの総意としての合意形成を進めていくのが基本ではあります。
でも、現実にはあまりにも酷いことがありますので・・・
平成4年5月22日 東京地方裁判所判決

【主文】
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。

【事実及び理由】
第一 請求
一 被告は、原告ら各自に対し、別紙文書目録記載の文書を閲覧させ、かつ、その写しを交付せよ。
二 被告は、原告ら各自に対し、別紙報告事項目録記載の事項を文書により報告せよ。
第二 事案の概要
本件は、別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件建物」という。)の専有部分の区分所有者である原告らが、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という。)25条所定の管理者(以下「管理者」という。)であった被告に対し、区分所有法28条が準用する民法645条の委任終了後の報告義務の定めに基づき、被告が管理者に就任中又は就任前にされた業務に関する文書の閲覧・写しの交付及び書面による報告を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告らは、それぞれ本件建物の専有部分の区分所有者である。
(二) 本件建物の区分所有者(店舗12戸、住居43戸、合計55戸)は、全員で、区分所有法3条の区分所有者の団体である「A管理組合」(以下、「管理組合」という。)を構成し、同法に定める集会である「総会」を開き、同法に定める規約である「A規約」(以下、「管理規約」という。)を定め、同法の管理者である「理事長」を置いている。
(三) 被告は、昭和63年4月17日から平成2年6月2日まで、理事長の地位にあった。
2 総会の決議と特別委員会への委託
(一) 昭和60年1月ころ、本件建物の東側に、○○B組合(以下「B組合」という。)が高層ビル(以下「Bビル」という。)を建築する計画が発表された。
(二) Bビルが建築されることになれば、本件建物にもそれに伴う諸問題が発生することが予想されたことから、本件建物の区分所有者のうち有志数名は、昭和60年10月ころ、この問題に取り組むための「B特別委員会」を作り、理事長と連携しつつ、諸問題の検討やB組合との交渉を開始した。
(三) 本件建物の区分所有者は、昭和61年5月1日の総会において、前項の「B委員会」を管理組合における正式な集団と認め、区分所有者のためにするB組合との交渉、合意及び事後処理等を上委員会(以下、「特別委員会」という。)に取り扱わせる旨決議し、特別委員会委員6名を選出した(以下、上決議により特別委員会に取り扱わせることとした、B組合との交渉、合意及び事後処理等を、「本件事務」という。)。
(四) これを受けて、当時の理事長Cは昭和61年5月1日、特別委員会(委員長D)に対し、本件事務の処理を委託した。
3 特別委員会による本件事務の処理
(一) 特別委員会は、B組合との交渉の結果、昭和61年6月10日ころ、同組合との間で、Bビル建築に伴う補償問題に関する覚書を締結し(争いがない。)、同年10月24日、同組合から、工事迷惑料として2,200万円を受領した(以下「補償金(一)」という。)。
(二) 特別委員会は、昭和61年12月25日ころまでに、補償金(一)の使途及び区分所有者に対する分配方法を定め、そのころ、該当する区分所有者に対し、これを支払った。
なお、その際、原告X1には30万円(争いがない。)、同X2には3万円の支払がされたが、同X及び同X3には何の支払もされなかった。
(三) 更に特別委員会は、昭和61年12月15日、B組合との間で工事協定書を締結し、Bビルの本件建物側に面する廊下部分に目隠し板を設置すること及びB組合が日照その他の迷惑料等の補償金を支払うこと等を合意した。
(四) 上目隠し板の設置は法令上許されないことが判明し、実現しなかったが、特別委員会は昭和63年4月12日、B組合から、目隠し板の設置に代わる補償等として、1,300万円の支払いを受けた(以下「補償金(二)」という。)。
(五) 特別委員会は、昭和63年5月26日ころまでに、Bビル側に面する専有部分の区分所有者に対しては現金ではなくエアコン等の現物を支給すること及び補償金(二)の使途を決定し、そのころ、該当する区分所有者に、希望の物品を支給した。
(六) また、特別委員会は、昭和63年11月25日から、補償金(一)、(二)の内2,200万円を用いて、本件建物1階中央通路・玄関等の改修工事をした(上工事がされたことは争いがない。その余の事実につき、《証拠略》)。
二 争点
1 管理者である理事長は、その取扱う事務に関し、区分所有法28条で準用される民法645条により、個々の区分所有者の請求に対し、直接報告すべき義務を負うか否か。
2 上1が肯定される場合、区分所有法上本来管理者である理事長の取扱う権限に属しない事項であっても、総会が当該事項に関する事務を特別委員会に取り扱わせる旨決議し、これに基づき理事長が上事務を同委員会に委託したときは、理事長は、上事務につき、区分所有法28条で準用される民法645条の報告義務を負うか否か。
3 上1、2が肯定される場合、区分所有法28条で準用される民法645条の報告義務には、文書の閲覧・写しの文付及び文書による報告の義務が含まれるか否か。
第三 争点に対する判断
一 争点1(理事長は直接区分所有者に報告すべき義務を負うか否か)について
区分所有法28条は、「この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。」と定め、民法645条は、受任者は委任者の請求あるときはいつでも委任事務処理の状況を報告し、委任終了の後は遅滞なくその顛末を報告することを要する旨定めている。
そこで、本件において管理者である理事長が個々の区分所有者の請求に対して直接その取扱う事務に関する報告をする義務を負うか否かにつき検討するに、本件においては、以下の理由により、管理者である理事長は、管理組合の総会において上の報告をすれば足り、個々の区分所有者の請求に対して直接報告する義務を負うものではないと解するのが相当である。
すなわち、区分所有法25条は、規約に別段の定めがない限り集会の普通決議により管理者を選任する旨を定めているところ、本件においても、管理者である理事長は、上25条及び管理規約の規定により、区分所有者の過半数が出席した総会で議決権(1住戸1店舗につき1議決権)の過半数により選任された理事数名の中から、互選によって選出されたにすぎず、個々の区分所有者から直接管理者となることを委任されたものではないから、上理事長が個々の区分所有者の受任者であるとみることはできない。また、区分所有法43条は、管理者の取扱う事務の報告義務につき、「管理者は、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。」と規定し、更に同法34条1項2項は、管理者に集会を招集する権限を付与するとともに、少なくとも毎年1回集会を招集する義務を定めている。したがって、区分所有法は、管理者の取扱う事務についての報告は、上の集会においてされることを予定しているというべきである。そして、管理者が上の報告を怠るときは、区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上の要件を備えた者が管理者に対し集会を招集するよう請求する権利を持ち、それでも集会が招集されないときは、上請求をした区分所有者が集会を招集することができるとされているから(区分所有法34条3、4項)、管理者が集会の招集を怠ることで報告義務を回避する場合が仮にあったとしても、区分所有者が集会で報告を受けるための方途は講ぜられているということができる。
したがって、前記のとおり、管理者である理事長と個々の区分所有者との間に個別の委任契約が認められない本件においては、管理者である理事長がその取扱う事務につき個々の区分所有者の請求に対し、区分所有法28条、民法645条により直接報告をする義務を負担すべきものとはいえない。
二 そうであるとすれば、管理者である理事長がその取扱う事務につき区分所有者の請求に対し直接報告する義務を負うことを前提とする原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(裁判長裁判官 濱野 惺 裁判官 畑中芳子)
裁判官長野勝也は転補のため署名押印することができない。
(裁判長裁判官 濱野 惺)

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